旅人の宿に着いてから今日で4日目。
ここ数日、サイラスの様子が変だ。
ごみで遊んだり、汚れた水たまりではねまわったりしている。
みんなで気晴らしにリサイタルをした時は、一人だけ楽器も持たずに幸せそうに花をいじくりまわしていた。
そういえばその日の朝だったか。サイラスは洗濯をしながらトイレを我慢していた様子だった。
よほど洗濯に集中していたんだろう、夢中になると周りが見えなくなるのはいつものヤツのことだ。
洗濯がすんだあと、サイラスはフラフラになりながらトイレに向かっていた、はずだ。
見届けたわけじゃないからわからないが。
だが、その日の夜。
廊下ですれ違った俺にサイラスは突然、おかしな話をしてきたんだ。
最初はクロコウモリや暗闇耐性についての話だった。
なのにヤツはなんの脈絡もなく、いきなり今朝漏らしたと俺に耳打ちをしてきた。
俺はどう反応して良いかわからず、そんな話をするサイラスもよくわからなくて怖くなった。
たしかにベッドわきにあった謎の水汚れを掃除をした記憶はある…だがありえん。
サイラスは今年三十路だぞ?俺をからかってるんだろう。
そんなおかしな話をするサイラスを少し避けようと思った。
―なのに、だ。
ヤツは俺に付いて回る。
一人で静かに飯を作って食いたいときも、
ごみの処理をしているときも。
俺が避けてるのに気づいてか、洗い終わった洗濯物をサイラス自身がぶち撒いて、それをどうにかしてくれと呼びよせられたこともあった。
サイラスが正直怖い。
ヤツは一体どうしたっていうんだ―――
夜中にサイラスが部屋を抜け出していたのは知っていた。
だが、なんだこれは?どういうことだ?
ヤツは一体なにを考えている。目的はなんだ?
風邪をひいてる中、部屋をでて態々こんなことを…なぜだ?
俺はサイラスに嫌でも聞き出さなくてはならないと思った。
あの絵は即刻ヤツの目の前で売り払った。
大した金にはならなかったが、俺をからからかった報いだ。
これだから学者という生き物は冗談すらつまらなくて嫌になる。
風邪に頭でもやられたのか?にしても、ヤツは…サイラスは本当にどうしたっていうんだ。
あんなつまらん下ネタなんぞ言う男じゃなかったはずだ。
少し気になって明け方近くに遊戯室にもどると、病んだ絵が置かれていた。
知るか。
心配した俺がバカだった。
一体俺がなにしたってんだクソが。察してちゃんが。
こんなつまらん絵、上から塗りつぶしてやる。
よし…これを見て、少しは凝りてつまらん病んだアピールなんかしなくなればいい。
ここ数日の事情もちゃんと話すようになってくれればいいんだが。
あぁ、さすがに今日は疲れたな。部屋に戻るのはサイラスがいるから気まずい。
談話室のソファで寝て、昼間サイラスがいなくなった隙に布団に戻って眠ろう。